「近所が1億円で売りに出たから、うちも…?」不動産査定の現実と、私たちが「売らない選択」を提案した理由

「近所で1億円以上の値がついて売りに出されている家があるの。
私の家も、それくらいで売れるんじゃないかって友達に言われて……」

先日、ぬりかべ不動産に一人のご高齢の女性が相談にいらっしゃいました。

お話を伺うと、「もし本当にそれだけの価値があるなら、売却して、もっと生活に便利な場所に住み替えたい」とのこと。
ただ、「主人にはまだ内緒なので、すぐに売りたいわけではないのだけれど」と、少し不安そうに、でも期待を胸に秘めてのご相談でした。

私たちは、単に「いくらで売れるか」を計算するだけでなく、お客様の人生にとって何がベストかを常に考えています。
今回の事例を通して、不動産査定の裏側と、私たちのサービス「ぬりかべの地結び」のスタンスをお話しします。

1. 徹底的な周辺調査と、相談物件の「現実」

まずは、お客様がおっしゃる「近所の1億円の売り家」を調査しました。

確かに、1億円近い価格で売りに出されていましたが、実態は「築浅の大手ハウスメーカー施工物件」であり、なおかつ「1年以上売れ残っている状態」でした。
不動産市場において、1年以上買い手がつかないということは、相場よりも価格が高すぎる可能性を示唆しています。

次に、ご相談いただいたお客様の物件を調査・比較しました。

  • 土地の条件:
    広さ、形状、道路への接し方(接道状態)などは、1億円の物件と非常に似通っていました。
    つまり、土地単体の価値としては、同じような評価になります。
  • 建物の条件:
    ここに大きな違いがありました。
    お客様の建物は、大手ハウスメーカー施工の「鉄骨造3階建て」。築30年以上が経過しており、1階部分は長年ご商売(専門病院)を営まれていましたが、ご主人の体調不良により現在は閉院されている状態でした。

土地の価格が同等である以上、今回の査定の勝負どころは「この築30年超の鉄骨造(元病院)の価値を、将来の買い手にどこまでアピールできるか?」にかかってきます。

2. 築30年超の鉄骨造、プロが見る「2つの勝負ポイント」

古い建物を売却・活用する場合、私たちは以下の2つの視点から徹底的にシミュレーションを行います。

① 税法上・融資の問題(法定耐用年数)

買い手が中古物件を購入して事業を行う、あるいはローンを組む際、重要になるのが「法定耐用年数」です。

国税庁の基準によると、鉄骨造の耐用年数は、骨組みの肉厚によって以下のように定められています。

  • 肉厚4mm超(店舗用・住宅用):34年
  • 肉厚3mm以上4mm未満:27年
  • 肉厚3mm未満:19年

(出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

築30年が経過しているため、税法上の残存価値は一見するとわずかです。

中古物件の「簡便法」を用いて残りの耐用年数を計算しますが、もし買い手が事業用として使う場合、修繕内容やその費用によって耐用年数の計算が異なってくる特例もあります。(出典:国税庁「中古資産の耐用年数」

このあたりの税務・融資のアドバイスができるかどうかが鍵になります。(詳しい税務相談は、税理士の先生に依頼しております)

② 物理的な寿命(建物のコンディション)

もう一つは、「実際にあと何年、安全に使えるか?」という物理的な視点です。

鉄骨の錆や腐食(肉厚の確認)、雨漏りのリスク、基礎や外壁のひび割れなどを細かくチェックする必要があります。
そのためには、これまでの「修繕記録の調査」や、専門家による「住宅診断(ホームインスペクション)」の実施をご提案します。

これらは費用や日程の調整が必要ですが、買い手に対して「修繕費用の見通し」をクリアに提示できるため、大きな売却チャンスにつながるのです。

3. 私たちが導き出した査定額と、「予想外の提案」

これらすべての要素を総合的に想定し、シミュレーションした結果、私はお客様にこのような結論をお伝えしました。

土地の価格は、大きさや路線価、周辺の取引実績から見て、3500万円前後です。

建物は、税法上の価値はゼロに等しいですが、建物のポテンシャルを活かして1000万円からスタートし、様子を見て下げていく形になります。

合計の売出価格は、4500万円前後
大変心苦しいですが、ご近所の1億円には届きません。

お客様は少し残念そうにされていましたが、データに基づいた説明に深く納得してくださいました。

しかし、私たちの仕事はここで終わりではありません。

お話を伺う中で、ご主人の体調が優れないこと、そして何よりご相談にこられた奥様ご自身も、少し健康状態を崩されているように見受けられました。

そこで私は、売却のプロとして、あえてこのようなご提案をしました。

「新しくて便利な住まいに移って環境を大きく変えるよりも、住み慣れた今の家で、ご家族と一緒にそのまま暮らされたほうが、お体の負担も少なく安心なのではないでしょうか。
無理に今、売却する必要はないと思いますよ」

お客様はホッとした表情を浮かべ、「お話しできて本当に楽になりました。また何かあったら、真っ先に相談させてください」と言って笑顔で帰られました。

4. 売買契約は目的ではない。その先の「人生」を一緒に考える

一般的な不動産会社であれば、営業ノルマや案件数を確保するために、「奥様、まずは1億円とは言わずとも、もう少し抑えた金額で売りに出してみましょう!」と媒介契約を急がせるかもしれません。

形だけでも物件化して広告を出せば、会社の数字につながるからです。
もちろん、どの不動産会社でも売却の動機や目的のヒアリングは丁寧に行うでしょう。

しかし、売る気にさせることがゴールになってしまっているケースが少なくありません。

私たちのサービス「ぬりかべの地結び」が最も大切にしているのは、「その不動産を売却した場合と、売却しなかった場合の、その先にある生活を考えてあげること」です。

不動産は人生を豊かにするための手段であり、目的ではありません。

売却しないことがお客様のご家族にとって一番の幸せであるなら、私たちは「売らないほうがいい」とはっきりお伝えします。

「今の家、売ったほうがいいの?それとも残したほうがいいの?」
「周りの噂でいくらで売れるって聞いたけれど、本当の価値を知りたい」

どんな小さなお悩みでも構いません。
お客様の状況に寄り添い、一番良い解決策を一緒に模索します。

どうぞお気軽に、ぬりかべ不動産へご相談ください。

ぬりかべ不動産 代表

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